腹八分寄り道人生

なんてことない日常つらつら

残心 Overcoming the Stigma

残心 世界のハンセン病を制圧する

残心 世界のハンセン病を制圧する

表題となった「残心」には二つの意味がある。
剣道や武道全般では心が途切れないことをいう。とくに技を放ったのちに気を抜かず、間合いを読みつづけることをいう。
(中略)もうひとつは、いわゆる「心残り」という意味である。笹川さんは世界有数のソーシャル・ソリューションのための財団をつくり、これを育くみ、なかでもハンセン病の制圧と差別の撤廃にその活動を注入してきたのだが、むろん万事を完遂できているわけではない。
また、父君の笹川良一の汚名を雪ぎたいと思いながらも、それがまっとうできたわけではない。
かつてこのような本はなかった。私は多くの日本人が本書に向かいあってほしいと思っている。松岡正剛(序より)

「右翼の大物」「戦後最後の首領」「A級戦犯容疑者」…あの笹川良一の息子として受けいれざるをえない宿命と、みずから選んだ使命とは。75年間の総決算。
父親の遺志を継いで世界のハンセン病根絶のために長年にわたり、陽平氏がどのような活動をしてきたか。「生きているうちに評価されたいと思うような人間はロクなことができない」が口癖で、マスコミの言いたい放題に一切反論しなかった笹川良一が為したこと。日本人としてどう生きるか。
軽い気持ちで読んだら火傷するぜ。 知らないことばかりで恥ずかしい。

笹川良一ハンセン病の根絶をライフワークにすると決めた理由。それは初恋の君の突然の失踪。当時、「不治の病」「遺伝病」「業病」として誤った認識が広まっていたため、一族すべてが差別の対象とされていた。ハンセン病を発病した娘さんは、悲嘆のあまり家出をして、そのまま行方不明となってしまったそう。


遺志を継いだ陽平氏の献身的な取り組みにも頭が下がる。
単身でジュネーブに行き、国連人権委員会(現・国連人権理事会)にハンセン病の患者、回復者、その家族に対するスティグマや差別の撤廃を訴え続け、やがて、日本政府提案による決議案が59カ国全会一致で決議。人権理事会ではつねに日本の提案に反対する中国とキューバが、良平氏の説得によって、日本政府原案に賛成しただけではなく、共同提案国となってくれたこと。このやりとりがとても面白かった。つまるところは、やはり人と人なんだ。


世界のどのような地域に行っても、誰に会っても、言い続けることを徹底してきた三つのメッセージ。

  • ハンセン病は治る病気です
  • 薬は無料です
  • 社会的差別は絶対に許されません

人の意識を変えるのは、並大抵のことではない。どんなに正しい情報でも、一度きりでは伝わらない。テープレコーダーのように何百回、何千回と、同じことをくりかえし訴え続けていくしかない。


日本財団の活動はとても興味深い。東日本大震災のときの活動など、恥ずかしながら全く知らなかった。どんなに良いことをしても、それを自らアピールするのは善しとしない国民性であり、わかるやつだけわかればいいで今まできたけど、やはりアピールしていくことは大切だ。今回 執筆にあたって、周囲からの「世界に向けて明らかにすべきだ」という後押しがあったそうだが、書いてくれなければ私は誤解したままだった。
金、人脈、行動力、そして信念。クリーンだけでは政治家は務まらない。裏と表を引き受けてきた親の姿を見て育った二世は違う。世襲ってそんなに悪くないと思う。

日本財団の活動をこれからも注目していきたい。



第五章『義と情』「経世済民の思想と天皇」も興味深かった。

武家が政権を握る時代が長かった日本において、天皇家はその長い歴史のほとんどを、実権をもたないまま継承し続けてきた。世界史的に見て、これもまたきわめてめずらしい君臨である。「天皇とは何か」ということは、日本の歴史や文化の研究者のあいだでも難問となっているようだが、その本質のひとつは、いまもって日本という国の祭祀の長であるということではないだろうか。すなわち、「民のために祈る君」である。


日本の「黒幕」200人 (宝島SUGOI文庫)

日本の「黒幕」200人 (宝島SUGOI文庫)